12-13-2005 | 小説「四つの嘘」

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私の三作目の小説「四つの嘘」の書評や著者インタビューは、あちこちの雑誌や新聞に出ましたが、「書評のメルマガ」というサイトに、蕃茄山人さんが書いてくれた書評が、すごくうれしかったので、アップします。5000人に配信しているメルマガらしいです。
自分の本の自慢みたいで申し訳ないのですが、作者の狙いも見事に読みといてくれているので、ぜひ、みなさんにも読んでいただきたくて・・・。


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『四つの嘘』(大石静、幻冬舎、1,600円)

 この季節になると「もう今年も終わりだなあ」という気がしてくる。年末年
始恒例のアレコレも人々の口の端に上るところ。「エェー?! 紅白の司会が
みのもんた!? それって自爆テロかよ?」とかね。もうひとつの恒例の話題
が大河ドラマ。来年は司馬遼太郎原作の「功名が辻」。土佐藩祖・山内一豊と
妻・千代の物語。上川隆也と仲間由紀江というのは結構期待できそう。そして、
脚本は「ふたりっ子」の大石静。「功名が辻」は歴史活劇というより夫婦のド
ラマだから、この人選はナイス。放映開始が楽しみだ。

 本日、ご紹介する本は、その大石静の最新小説「四つの嘘」だ。あの「ふた
りっ子」や「オードリー」の大石さんが書く小説だから、ロマンティックで
ユーモラスでお洒落な…と思ったあなたはあわてんぼ。これは怖〜い怖〜いホ
ラーよりも怖い小説である。そして、なんともお人の悪い小説である。

 世界で一番怖い物語が「四谷怪談」であることに異論を挟む人はいないだろ
う。僕も幼稚園の頃、近所の床屋のおじさんに頭を刈ってもらいながら「お岩
さん」の話を聞いて夜トイレに行けずにお漏らしをしたことがある。あとで母
が床屋さんに文句を言いに行ったりして一悶着あった。言うまでもないが、四
谷怪談の怖さは幽霊の怖さではなく人の心の闇の深さ、魂の暗部の怖さである。
この『四つの嘘』の怖さもそこにある。

 物語の発端はニューヨーク。ハドソン河を渡るフェリーのデッキに仲睦まじ
げな中年の男女。夫婦ではない。男はバツイチのエリート外交官、女は教育者
の妻である。抱きあう二人…。なんて聞くと「ハーレクイン?」なんて思って
しまうのだけど全然違う。甘いムードは二人を襲う突然の事故によってかき消
される。氷河に落ちる二人。なぜか隠蔽される死。

 因縁は二十数年前の女子高の音楽室まで遡る。この物語の主人公は4人の女
性。女子高の同級生だ。

満希子・・・・スタイル抜群で美人。クラスのリーダー的存在の活発な少女。
詩文・・・・自らの淫蕩な血を抑えることが出来ない文学少女。安定したものは毀
さずにはいられない。それが自分のものでも他人のものでも。
ネリ・・・・常に勉強一筋のクールな秀才。のちに脳外科医となる。
美波・・・・・・・・・・・・。

 この美波こそが、物語冒頭でハドソン河に沈んだ女性で、一緒に沈んだ男は
美波の昔の恋人、そして詩文の元・夫である。この水難事件によって、封印さ
れていた4人の「嘘」と運命の交錯がよみがえるのだ。

 一見、穏やかな中・高・大、一貫の学園の平和な風景。しかし一歩中に入れ
ば嘘や憎悪がドロドロと複雑に絡み合っている。愚鈍なまでにロマンティック
なものに憧れる美波の恋人を、早熟なテクニックを持つネリが面白半分に誘惑
し、奪う。それをまるで世界中の正義を背負ったかのように糾弾する満希子。
下世話な争いには関わり合わないクールなネリ・・。

 物語は女子高生だった彼女らと、四十路を迎えた現在を行き来する。

 クラスのリーダーだった満希子は人生においてリスクの少ない選択を重ねる
うちにただの暗いオバサンになった。すべてに自信がない。でも遠慮しいしい
図々しい鈍さを身につけた(こういう女が一番厄介だ)。
 詩文は美波の恋人を奪い、妊娠を楯に結婚したが離婚。その後もまた安定を
毀し続けた挙句、昼食代にも事欠くほど経済的に破綻の危機にある(こういう
女に関わり合ってはいけない)。
 ネリは仕事一筋だったが、偶然担当した詩文の若くて野卑な恋人との情交に
溺れかけている(こういう女が一番危ない)。
 美波は自分を捨てた恋人が忘れられずに、容貌が似た男と愛のない結婚をす
るが、心は昔の恋人を追い求め、死を呼び寄せる(こういう女が一番怖い)。
 つまり、みんな厄介で危なくて怖くて関わりあいたくない女なのだ。

 作者は彼女らの「嘘」と魂の暗部をこれでもかこれでもかと読者に見せつけ
る。というか突きつける。「これはみんなあなたよ」とばかりに。これはかな
りこたえる。次々と見せられる真っ黒なハラワタはどれも僕のものだ。

 流石にトップのヒットメーカーだけあってテンポがよく、展開はスピー
ディーだ。読み始めるとやめられない。これはぜひドラマになって欲しい。配
役は、満希子、詩文、ネリ、美波を松田聖子の一人四役で。少女時代は当然、
SAYAKA嬢で。母子和解したそうだからちょうどいい。

 この他にも、奇しくも同じ学園での同級生である彼女らの娘達との確執や
「魂の輪廻」「宿命の悪循環」も、この小説のもう一つの大きなテーマである
のだが残念、紙数が尽きた。
 
 繰り返しになるが、とにかく怖い小説である。それを説明したいがために、
しなくてもいいお漏らしの話までせざるを得なかった(うそ)。でも読後感は
決して悪くない。ネタばれになるからあまり書けないのだけど、ラスト近く、
陰気で地味なオバサンと成り果てていた満希子が突如、往年のクラス委員的活
躍を見せるシーンと、3人が死んだ美波を偲んで旅に出るエピソードはまるで
白日夢の中のひとコマのように美しく、感動的だ。

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